sweet vanilla

vanilla

ライフログ 映画や本の感想 など

出力

最近受け取ったいろんなこと、気持ち、をどこかになんらかの形で出力したくて、とりとめもない日記を書くことにした。

 

鮮やかでどうしようもなく眩しくて美しいものと

色褪せていってバラバラになって消えてしまう美しいもの

どちらも愛している、

どちらにも手が届かないな

でもどちらも愛している、そんな気持ちだな

 

自分がポジティブでよかったな~と思う

悩みとか苦しみに変換することは容易で、

手が届かないことを嘆いてみてもいいんだけど

僕は自分の手にきらきらした陽の光が降り注いでいる、そのことだけでなにか、いとおしくて泣きそうになってしまうな

 

(文章を書く時、一人称が僕のほうがしっくりくることがあるのだけど、あまり気にしないでほしい)

 

人が死ぬこととか

人生が続いていくこととか

スケールが大きすぎるな~と圧倒されてしまう

だから小さい日常の中の問題にすり替えていって

そのうちに本当に感じていた何かは失われていく

分解して

処理されていく

 

母の葬式の後、当時の恋人と焼肉を食べた

乾杯をした

これからも生きていこう、わたしたちは、

 

あの時うまく泣けなかったからずっと痛みを分解して小さくして少しずつ取り出しているのかもしれない

母の死は幼い頃から覚悟し続けていた

どれだけ覚悟したってしかたなかった

私は自分を守ろうとして、傷つけていたのかもしれないな

死なないでと泣ける余裕も環境も私にはなかった、

今、泣くことで、何かが変わっていくのだろうか

 

日々、私の変わらない部屋の中で

温度があがってゆく

 

死ぬまでの遊びだよ、

何をしたってしなくたって

その日は近づいてゆく、

本当は欲しくないものなんて追いかけなくていいよ、きっと

この世界で私はこれからも生きていけるのかわからないけど

例えば明日死んでも、悔いはあるけど、楽しかったなと思う

踊って歌って遊んでいるよ

できないことも思うようにいかないことも

私の手足だ、

できることだけが、私の手足なわけじゃない

できないことも、私の手足なんだ、

この足でステップを踏み、

この手で何かを書いたり誰かに触ったりする、

 

この世界が綺麗すぎて、人生がどうにもいとおしくて

圧倒されて泣いてしまうな

明日もまた生きてみたい、

明日もまた。

夢日記 祀られた少女

薄暗い場所にいる。
地下室のような、穴蔵のような場所で、四方を土気色の壁に囲まれている。窓がない。灯りはどこから来ているのか。恐らく蝋燭か何かが灯されているのだろうが、光源は記憶の中にない。
しんとしている。私以外に人はいない。いるのは、床に大量に散乱する蛆虫たちだけだ。蛆虫の他には、何かの草、南瓜を少し小さくしたような実、張り巡らされた蜘蛛の糸。それ等で地面のほとんどが埋め尽くされていて、踏み潰さないことには先へ進めない。
嫌悪感を抱きながらも、私は前へ進むしかなかった。友人を助けに来たのだ。
友人とは十代半ばほどの少女である。そのような子供が友人であるからには、私の年齢も夢の中では幼くなっていた可能性がある。

友人は何らかの事情で、この部屋の奥にある祭壇に祀られてしまった。

神だか巫女だかの役目を背負わされたようだった。


なんとか祭壇の前にたどり着く。特段に厳かではないが簡素でもない。何せ知識のない私の夢の中なので、造りはかなり曖昧なものだ。

祭壇の中は暗く、なんの姿も見えない。

 

友人の名を呼んでみる。
返事はなかったが、しかし彼女は暗がりから姿を表した。
私はぎょっとした。

彼女は全身を草の葉で覆われていた。花や実はない。ひたすらに緑の、葉や蔦が彼女の体中に巻きついている。中に服を着ているかどうかすらよく見えない。明らかに人為的に、何らかの意図を持ってそうされていた。儀式的な意味があるのだろうか。
私がぎょっとしたのは彼女の姿のせいでもあったが、それより彼女の表情、顔つきに驚いていた。彼女は呼ばれて現れたにも関わらず、全く私のほうを見てはいなかった。

黒塗りの瞳。何の感情も伺えない。
彼女は正気でなかった。けれど発狂しているのとも違う。彼女はぼうっとしていた。知能や自我が欠落しているように見えた。けれど呼ばれれば来る、ということが逆に恐ろしかった。既に、彼女が神だか巫女だかの役割そのものの人となってしまったように思えた。いや、人というより器だ。

彼女の体という容器に、私の知らない何かが入っている。

それはもう友人ではなかった。

 

何と声をかけたものかとためらって、ふと周りを見ると、部屋中に子供がいた。

いつの間に入ってきたのか。入ってきた、というより、最初からそこにいたように思えた。
突然にそこにいたという不気味さを除けば、子供たちは至って普通の様子で、賑やかに談笑している。
そして私は子供らと共に、儀式めいた踊りに参加していた。気がつくとそうしていた。

このあたりは夢特有の、ぶつ切りの場面転換である。
踊りの中で、子供たちと私は互いの肩や膝をさすり合う。その体の部位を神様に取られてしまわないようにするおまじないなのだと、子供の一人から聞いた。随分と物騒な神様だ。

しかし私は誰からも右肩をさすってもらえないまま、踊りが終わってしまった。このままにしておくと、私は右肩を神様に取られてしまうのだ。

 

神様とは誰のことなのか。私の友人だった少女だろうか。それとも別の。
何も分からないがともかくここで夢は終わる。

続きや事の真相を誰も語ってはくれない。

TRICK シーズン1 ※ネタバレあり

後味の悪さを各種豊富に取り揃えております!って感じの品揃えで最高だったな。

こんなに全部が全部、不穏で嫌な終わり方をするドラマだったとは。さすがに覚えてなかった。

 

以下、各回の感想。ネタバレしか含まないのでご注意を。

 

1~3話:母の泉

他の回と比べると後味の悪さがまだマシなように思えるけど、単に最初に見たから印象が薄れてるだけかも。

夜に見て寝て、絶妙に嫌な寝起きだった。

トリックとしては雑な部分も多いように感じる。地震で死んだ男は事故死なのかな?とか。マザーの空中浮遊、上田の研究室でやるの無理があるやろ、とか。上田が気絶してなかったらすぐタネがバレてる。

でもそんなことはいいんですよ、この作品において。重要なとこじゃない。

新興宗教のインチキを明かして、でもそれで誰が救われるのか、という。いいね。

 

個人的に、「人の心が読めるようになったからといって人を救えると思い込んだマザー」のことが好きなんですよね。

傲慢だなとも思うし。でもそれは優しさだったのだと思うし。善意が必ずしも良い方向に進まないってところも哀れで。

彼女の能力の殆どはインチキだったにしても、人の心を読めることは本当なんでしょう。

でも心を読めることと、人を救えることはイコールじゃない。

未来予知ができるわけでもないし、適切なアドバイスをする能力があったかもわからない。

霊能力があることによって自分を信じさせて、自分が「大丈夫」って言うのだから「大丈夫」なのだ、と思わせている。不気味だけど否定もできない。

人智を超えた神のような存在に「大丈夫」と言ってもらいたい気持ちも理解できるんですよね。ほっとするだろうな~と思うし、不安や苦悩の中にいるより、「大丈夫なんだ」と信じることができるなら、実際にそれは大きな救いになるだろうと思う。

ただそれは、薄氷の上にある危うい救いだったわけで、「霊能力なんてインチキだ!」っていう正義感というか使命感のようなものでズカズカ踏み荒らしていいものではないよな、とは思います。とても。

ただもう、「一度入信したら村から出てはいけない、出たら呪われる」なんてルールを課したり、搾取し続けるために人を殺すようになってしまっていたから、それはもう壊さなきゃいけないものだったんだけど。

もし「救いとして健全に機能している宗教」だったとしたら、山田たちの行いってかなり無粋な暴力だったわけで。

主人公たちにヘイトが向きすぎないバランスで、でもその行いの危うさを感じられるのがいいですね!

 

くっそ長文になったけど大丈夫か?このペース配分?ダメかもしれない

 

4~5話 消えた村人

ミラクル三井がもう大好きですね。

シーズン1で登場した霊能力者たちの中で1番好き。

まず見た目がいい。ゴシックなメイク、華美な服装、顔がいい。でももっと若くてイケメンだと美麗になりすぎちゃう。中年男性なのがいいんですよ。哀れっぽさと不気味さが増す。

そして道化のような言動も好き。大げさにシクシク泣き真似をしたり、急にスンッと真顔になったり。大げさな立ち居振る舞い。滑稽さと愉快さがあって、それが逆に怖い。

とか考えてたら、本当に彼って「道化」だったんだなあって話運びで、めちゃくちゃ悲しくなっちゃった。あまりにも哀れで大好きだ……ミラクル三井……。

三井が死ぬ時、山田が三井を抱きかかえながら「ミラクル……ミラクル~~~!!」って叫ぶの、シリアスなシーンなのにちょっと笑っちゃう。それがまた悲しいんだよ。最後まで道化なの。バカみたいなふざけた名前で。

全てがバレてしまってもそれでも、「本物の霊能力者」であろうとしたのも最高。プライド高すぎるんよ。その生き方しか選べない人だったんだな。

彼の人生ってなんだったんだろう。辛い。大好き。クソデカ感情抱いちゃう。三井……。

 

そして!因習村だよ~~~!!ヤッタ~~~!!!

儀式!生贄!最高!!

「大昔にとある女性の子供を奪ってしまって恨まれてるから生贄に子供を捧げて許してもらう」ってもう、罪に罪を重ねていくスタイルなのうける。なんでそうなるんだ。

実際のところ、先に生贄を捧げたい理由があって、後から伝説が付け足されたパターンかもなあ。口減らしとか……。飢饉等で荒れる村人の気持ちを鎮静するためとか。ここはもう本編とは関係のない深読みですが。

 

あとさあ。この回、山田がずっと薄着なんですけど。

あのさあ。ぜんぜん貧乳じゃなくね!?!?!?!?!?!?

この話は終わります。

 

6~7話 霊能力で人を殺す美女

前回の投稿で「山田は美人だけど、キャラクター設定的に美女扱いされないのも納得できる」なんて書いたけどあれは撤回します。

今回の霊能力者が美女として登場して、他のキャラクターたちにチヤホヤされてるのを見て、「なんで山田にはそうしないんだ!!!!」と憤慨しました。

山田が美人じゃない設定は無理があるって。どうあがいてもめちゃくちゃ美人だって。

 

それは置いといて。

2話かけて不気味な殺人を続けて、結局それは「自分が無罪になるためのパフォーマンスだった」っていうのが、ちょっとだけ消化不良だったかな。

良い後味の悪さだな~とは思うのだけど。なんかもっとデカい理由があったのかと思った。無罪になりたいだけなら他にいろいろ方法はあるんじゃないか……?

妹ちゃんに「自分がやりました」って証言をさせるだけさせて殺すのサイコパスすぎて大好きだけど、そんなうまいこと毒で死ぬタイミング調整できるか?とも思うし。警察への心証悪すぎるし。

さすがに無罪放免にはならないんじゃなかろうか。しらんけど。

まあでも普通に3人殺して罪を逃れる難しさと比べたら、合理的な選択、なのか……?
そう考えると好きかもしれない。(???)

 

あと血を浴びる美女はいいものですね。

目がガン開きで怖かった。良い。

 

8話 千里眼の男

この胸糞悪いラスト、小さい時に見てめちゃくちゃ衝撃的で、大好きだったんですよね。どういう趣味してるんだ?

1話で終わる回だけあって、今回の霊能力者はかなり小物で。そのへんに実際にいそうなところがめちゃくちゃ良い。いや良くない。悪質霊感商法ダメゼッタイ。

でも構造としては母の泉のマザーと変わらないんだよなあ。自分の力を信じさせて、希望を与える。

ただ信じさせ続けることができていないから、「病気が治るって言われたのに治らなかった!」っていう被害届が発生してる。

母の泉がそうなってなかったのは、信者を出て行かせないようにしてたからでもあるけど、疑問を持たせないよう信じさせ続ける工夫が徹底してたんだろうな~と。

やるならトコトンだ!!騙すなら相手が死ぬまで騙しきれ!!!一族郎党騙すつもりでやれ!!!!という話ですか?

違いますね。騙しちゃだめだよ。

 

9~10話 父殺しの真相

もうこの最終回を見るためにTRICK見てるまである。あまりにも好き。

山田がずっと追ってた「父殺しの犯人」「本物の霊能力者」が自分自身であるという真相。

これまでトリックのタネ明かしを山田任せにしていた上田が、

「君が犯人じゃないということを俺が証明して見せる」と言う展開。

いやもう胸熱すぎるでしょ。大好き最高ありがとう。

 

でもここでスッキリ納得のいく終わり方をしないのが、堤幸彦~~!!って感じ。

結局、山田に霊能力があるのかないのか、ふんわりとボカされているし

(上田の怪我を治せていたので、霊能力者ではあるんだろう。でも、その力がどういうものなのか、本当にそれは霊能力なのか明言されないし、山田も結局は自覚せずに終わる)

父殺しの犯人は山田だったのか、そうでないのかも、本当のところはわからない。

シリーズ最大のものすごく不穏な謎を解き明かさないまま、不気味さと物悲しさを残して、ゆるく笑えるシュールなギャグと月光と共に締めくくられる。

もうなんかすごいバランスのドラマだよな~~。

 

父殺しの犯人、山田なのかな~~。他にめぼしい人、出てこないもんなあ。

(この後のシリーズで言及されるのかもしれないけど、覚えてない!)

上田が言うように「母が復讐のため、あえて娘に真相を追わせた」のだとしても、結局、山田が犯人ってことを否定はできてない。辛い。

っていうか最後の最後で提示される「真相かもしれない説」が、「山田の母が娘さえも利用して復讐をしようとした」っていうの、もう過去最大に後味悪いのよ。

これまでずっと、仲良し親子としての姿を描いていたからこそ。母と娘の間のシンクロや、不思議で強い絆を描いてきたからこそ。最悪のラストじゃん。

でも否定もできない。里見さん(山田母)、奈緒子の前では父の事件について「忘れたの。時間をかけて、やっと忘れたのよ」って言っていて(辛い)

でも村人たちの前では、「16年間一度も忘れたことはなかった」って言う。辛い。

奈緒子への愛情も間違いなく深くて強いものなのだろうけど。人の顔って一面だけではないね。野際陽子さんハマり役だったわね……。

 

それと。山田、自分が父殺しの犯人であると知ってからずっと絶望の中にいたのに

上田が来てから、いつもの調子を取り戻すんだよなあ。

父殺しではない証拠が出たわけでもないのに。

上田の言葉、その存在によって、普段の「山田奈緒子」に戻れる。

最高だよ。大好きだよ。

 

 

まあわかってたけど、ありえん長文になりました。仕方ない。大好き。

TRICK 導入がめちゃくちゃ好きって話

アマプラに入ってて嬉しい~~!!

もうね、まずね、導入が天才。

大好きすぎるから、あらすじ書いてみようかな。

 

売れない貧乏マジシャン・山田奈緒子の元に、

「超能力を証明できたら賞金を出す」という話が舞い込んでくる。

山田は金欲しさに超能力者を騙り、賞金を出すと宣言した物理学者・上田次郎の元を尋ねる。

手品によって上田を騙すことに成功した山田だったが、上田は簡単に賞金を渡してはくれない。

彼が金を出してまで超能力者を探していたのには理由があった。

上田は「ビッグマザー」と呼ばれる霊能力者の呪いを受け、あと4日の命と宣言されていたのだ。

「その超能力によって彼女のインチキを明かし、呪いを解いてくれれば賞金を渡す」という上田と共に、山田はビッグマザーのいる宗教団体「母の泉」へと向かうこととなる。

 

……あらすじ書くのって大変だな~!!わかりやすく省略するのって難しい……。

 

まずこの、マジシャンが金欲しさに超能力者を騙る展開!いいよね~!!

金欲しさっていう動機がしょーもないし、でも身近な感情で共感しやすくて。

 

上田と山田みたいな、お互いを罵り合いつつなんだかんだ仲良い男女コンビって他のドラマでも見かけるけど

女側にめっちゃ美人の役者さん起用しておいて小馬鹿にしたり、ちんちくりん扱いするのって、「この作品の中ではそうなんですね?」と思いながらも、無理あるよ~~こんな可愛くて綺麗な人にそれは~~無理あるよ~~と思ったりする。

でも山田は仲間由紀恵様ですからそりゃもうめちゃくちゃ美人さんなんだけど、役柄として貧乏くささとセコさと胡散臭さがあって、上田から小馬鹿にされる流れも不自然にならないんだよな~。好き。

(ただ、刑事さんからも山田が雑に扱われるのはあんまり納得いってない。マジシャンって判明した後で「胡散臭いやっちゃの~~」って言われるならわかるんだけど。判明する前から雑だったもん。なんで??山田ちゃん可愛いやろ!!大事にしろ!!)

 

あとね、この、上田が賞金を出している理由。

単純に「超能力のタネを見破る自信があるから!挑戦してこい!」って理由じゃなくて、本気で呪いに怯えてて、命かかってるからっていうね。

わざわざお金まで出す心理として、めちゃくちゃ説得力ある。

 

ここまで書いてから気づいたけど、山田も上田も、存在が身近なんだよな~。

マジシャンと物理学者っていう肩書きだけ見ると、「ワクワクする顔ぶれ!」とは思うんだけど、(いやホントにマジでワクワクする肩書きだよなあ!!そこも天才)視聴者の多くからは遠い存在に思える。

でも性格にわかりやすい欠点があって、行動の動機が「人間みがある=親しみやすい、誰でも理解できるような感情」だから、感情移入しやすい。

よくできてるな~。

 

宗教団体なんて怪しいとこ、そもそも行かんやろ……っていう

ホラー作品の導入あるある「そもそも行くな、そんなところに」っていうツッコミもうまく回避されているんだよな。

 

クトゥルフ神話TRPG(CoC)オタクだから、シナリオの導入としてなんて完璧なんだろうか……って思って見てた。すごく参考になる。やっぱりプロが書いたものはすごくてすごい。

 

CoCオタクの友達が「映画見てる時にCoCのシナリオとして見ちゃう、いま目星ファンブル出したな、とか」って言ってるの聞いて、「私はあんまりそういう目線でみたことないな」と思ってたけど、TRICKはCoCのシナリオみがありすぎて。めちゃくちゃCoC目線で見ちゃったわ。

棚調べるところは「目星に成功!」と思ったし、上田が科学知識を発揮するところは「これは物理学……いや知識の成功でいけるな」とか、追われるところでは「チェイス発生した!!」とか、ガス欠のところで「ファンブル出したやん……」とか。楽しい。

 

導入の話とCoCの話だけでこんな長文になっちゃったよ。

そのうち各話毎の感想も書きます。たぶん。

日記 君になりたかった

懐かしい人のことを思い出したので書く。

 

高校生の頃、インターネットで詩や小説や絵を描いている人と仲良くなった。

私より7つくらい年上の女性で、けれど私より背が低くて、童顔で、眼鏡が似合ってて、地味だけれど整った顔立ちをしていて、折れそうなくらい細かった。当時、森ガールと呼ばれていたファッションと近い、茶系のロングスカートや大人しめのガーリーな服装をしていて、女性というより女の子、少女と表現したくなる雰囲気を持っていた。レースや植物や生き物や鉱物が好きな人で、実際そうしたものが似合っていた。

 

彼女の作品は抽象的で私にはよく理解できないものが多くて、それよりも彼女のブログに書かれている内容に惹かれた。

過酷な家庭環境のこと、生きていく辛さ、心理学や哲学についての難しい話、好きなゲームや音楽の話。

彼女は難しい本を沢山読んでいて、周りの誰も知らないような暗い洋楽を聴いていて、私にはその良さが分からないものが多かったけど、分かりたかった。

真似をして彼女が絶賛していた哲学の本を読んだ。ヴィトゲンシュタイン。懐かしいな。

図書館で借りたけど読み切れないものも多くて、でも自分は存在しない、時間は存在しない、という話は今の私の価値観にも影響を及ぼしている。

まあでも大体の内容はよく分からなかった。

彼女の真似をして聴いた洋楽も殆どよくわからなくて、彼女のような英語力もなくて、でもQueenAdreenaだけはサウンドが刺さったし今も好き。歌詞ほとんどわかってないけど。彼女が好きだったPretty Like Drugsは今も心がしんどい時に聴くと癒される。

彼女がどうぶつの森が好きだったから私も好きになりたかった。飽きっぽい私は何度やっても、村を作り込むところまでいかず、住民とちょっと交流して満足してしまう。

真似をすればするほど彼女にはなれないことが明らかだったのに、私は彼女と気が合うと思い込んだ。そう思いたかった。

 

私の親は年齢よりかなり若く見えるからよく驚かれるし、私自身もそうだ。という話を彼女がしていたから、私も時間が経ったら老けるという価値観を持たなくなった。容姿の変化と時間経過は関係ないことなのだ、と思った。

それ以前は年齢より老けて見られることもあったのだけど、この思い込みだけは現実に効果があった気がする。良い事かどうかわからないけど実年齢よりかなり下に見られる。単に若作りをしてる痛い人間と思われているだけの可能性は否めないけど。まあ老けて見えるよりいいか。プラシーボ効果的なものがあったのかもしれない。

 

そんなふうに真似をしていた彼女が、私を「仲の良い相手」と認めてくれたことが嬉しかった。

彼女が主催していた詩を投稿するサークルで、HPのトップに私の絵を使ってくれた。

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↑その時の絵。懐かしい〜。

 

彼女が好きなリス園に行ったり、小さな動物園に行ったりした。

自由に触れるモルモットたちがストレスでお互いの耳などを齧った跡があり、2人でそのことを酷く悲しんだ。1匹ずつモルモットを抱き上げて膝に乗せて、ゆっくり撫でながらしばらくじっとしていた。

怯えていたモルモットたちは次第に安心して体が伸びて、気持ちよさそうにしていて大変可愛らしかった。

リラックスしてくれたからか、私たちが抱いたモルモットは膝の上で糞尿をしてしまって、笑いながら服を洗った。

 

私の家に来てくれたこともある。当時の実家は非常に散らかっていて、私が片付けても3日で元に戻ってしまう惨状で、そんなところに呼んでしまって申し訳なかった。

この惨状について私は彼女に伝えていたが、彼女の予想よりもはるかに荒んだ光景だったらしく、「今まで、片付ければいいのにってちょっと思ってた、ごめん」と謝られた。私の苦労を少し証明できたように思えて嬉しかった。

近所のパン屋さんで買ったケーキを一緒に食べた。こんな家で食べるのは、本当は気分の悪いことだったろうと思う。でも私はゴミ屋敷の中で、小さな美しい彼女が隣でケーキを食べていてくれることが、本当に嬉しかった。

なんだか誇らしい気持ちがしていた。

この家の中に私の居場所などないけれど、私はここに山と積まれた「可愛いから買ったけど未開封のまま放置してある荷物」と何も変わらない存在だと思っていたけど、

今ここに私は生きている、この家の中で私は自分の好きな人を呼んで好きな食べ物を買って食べて笑うことができている、ということが本当に嬉しかった。

 

終わりの日は突然で、共通の知り合い(Bとする)について彼女からメールが届いた。

Bと仲良くしないで。私からBを取らないで。

という内容だった。

呆気にとられた。悲しいとか辛いとか腹が立つとかよりも、なんだか呆然としてしまった。

それから、今まで私といて辛かった話も色々とされた。殆ど内容は覚えていないが、唯一覚えているのは、私のことを好きになりそうで辛かったという話だ。

 

あなたと初めて会った時、あなたはふわっとした服を着た大人しそうな女の子で、

とてもあんな暗い絵や文書を書くようには見えず、そこに共感したし惹かれた。

モルモットに糞尿をされても笑っていたり、鳥が客から貰った餌を食べていないことに気がついて、大きすぎるのかもしれないと小さくちぎってあげて「食べた!」と喜んでいる姿も好きだった。

でもあなたは同性を好きになる人ではないから。気持ちを抑えようと苦労した。

 

そんな話。

彼女がパンセクシャルだとは知っていた。

でも彼女が、私にとって神様のような彼女が、自分に恋愛感情を向けることなど想定していなかった。

勝手に神格化していたのは酷なことだなと思う。同性愛をどこか遠い世界のものと感じていたせいもあると思う。

もっと早く言ってよ、と思った。

言われていたらどうしていたというのか。

私が彼女に向けていた気持ちは恋愛感情ではないだろうし、仮にそうだとして、交際できたとも思わない。

でもそうしたかった、と思った。

彼女に強い感情を向けられることが嬉しくて、憧れの人をとにかく繋ぎ止めたくて、恋愛でもなんでもしたかった。私の彼女への気持ちは恋愛感情なのだと思い込みたかった。

無責任で酷い話だと思う。

 

しかし恋愛はおろか友情すら続けられなかった。

彼女は私に支離滅裂な文句を言ったあと、もろもろブロックされて縁を切られた。

あの当時の感情はもうぼんやりとしか記憶にないが、悲しみより諦めが勝っていた。

どうせいつかみんないなくなってしまう、とあの頃の私は思っていたから、特別、悲しむようなこととも思えなかった。

けれど本当は当たり前に、悲しかったのだろう。

 

手に入らなかった人は私の頭の中で好き勝手に美化されて、今も勝手に「エモい思い出」として文章にされて、彼女はこういうことを嫌がるだろうなと思う。

でも好きだよ。好きだよ。好きだったよ。

 

その後も彼女のブログはずっと読んでいて、精神状態が回復していく様子や、男にモテまくる様子、なんか良さげな人と付き合えたっぽい様子、憎んでいた親を許したような様子があって、そしてインターネットをやめると宣言があって、ブログの更新はなくなり、ホームページは閉鎖され、今検索をかけると跡地だけが見つかる。

幸せでいて欲しい。心からそう思う。

幸せじゃなかったあの頃の、思い出の中の彼女は私のものなので。現実では楽しく生きていて。辛かった分、たくさん愛されて、笑っていて。

十角館の殺人

□引用(ネタバレはありません)


小賢しい計算による予測が十全に通用するには、あまりにもこの世界は偶然に満ちすぎている。

 

黒くうずくまる夜の海に向かって、彼はゆるりと首を振った。


殺意なんていう極端な感情を長く心に維持し続けるのは、普通に想像するよりも遥かに大変なことだ(中略)人間の神経はそれほど強靭にできてはいないと思うんですよ


鎧戸の隙間から射し込む行く筋かの光線が、鋭利な刃物のように闇を切り裂いている。

 

 

□メモ

エラリー、たまに眼鏡するタイプの男???ありがとう

 

 

 

 


※以下ネタバレあり※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


□引用

 

彼女を島に閉じこめてしまいたかった

 

彼はね、義姉を殺したから死んだんじゃない。自分がこれ以上、今のままの状態で生きてはいられないから、彼女を一緒に連れていったんだ

 

 

□感想

 

いや〜面白かった〜!!読んでよかった〜!

 

 

・エラリーが好き

 

探偵役なら死なないかなって淡い期待をしてしまった、エラリ〜!!

よりによって焼死だよ 辛い

 

彼が名探偵にはなりきれなかったところ、辛くて悲しくて大好き

読者へのミスリードの為でもあるんだろうけど、彼が華麗に事件を解決してくれるんじゃないかって期待させておいて

実態は、推理外すし、警戒心低すぎるし、自分が睡眠薬飲まされた時でさえ「急に眠気が……ハッこれは!まさか!ヴァンお前ッ!?」とならずに「気が緩んでしまったみたいだ、ヴァンは大丈夫か?」って人の心配してるし……そいつやで犯人……

 

洒落で人を殺しそうってポーに言われた時、複雑そうな顔してたけど、分かりにくいだけで仲間思いの子だったんじゃないかなあ

推理についても、平等に全ての可能性を検討しているようでいて、外部犯であって欲しいって気持ちが作用してしまったのかも

ルルウ曰く、アガサが作ったご飯を疑いなく真っ先に口つけてたみたいだしなあ

ポーからタバコ貰って吸うし

仲間のことを心底からは疑えなかったんだね、それは欠落でもあると思うけど愛おしいよ、エラリー……

 

焼死させられる時、目覚めそうな気配があったところがめちゃくちゃ辛くて。

眠りの中でいつの間にか死んでた、とはならず、場合によっては自分が焼けていく様を自覚し苦痛の中で死んでいったかもしれないよね。うう……

絞殺も毒殺も撲殺も苦しそうだけど、ダントツで焼死が嫌だな私は……怖いじゃん……

そこまでされるようなこと彼はしたんかなあ。

エラリーに限らずだけど。

無理に千織ちゃんにお酒勧めるような子たちに見えないのがなあ。

実際にどうだったのかは描かれてなくて、それはミス研のみんなを読者が好きになれるように敢えて伏せられているのかもしれないけど。

彼らの受けた報復が割にあったものと感じられず、でも死に方はかなり鮮明に描かれるしエグくて辛い。そこがまた良し。

 


・犯人の性格が癖

 

まず冒頭、完璧な計画なんてものを立てるのは土台無理な話だから柔軟な対応をしよう、っていう発想が好き。リアルだなと思った。

1人ならともかく6人もの人間を順に殺していくってなると、そりゃ予想してないようなハプニングは起こるよねえ。

 

そして綺麗な緑のガラス瓶に「良心」を詰めて海へ捨てるところ、だいすき。

なんて人間的なんだろうと思って。

自分の運命を天に委ねるって心の動き、個人的にめちゃくちゃ共感できるんだよなあ。

これは後からわかることだけど、ヴァンは人の心に無遠慮に踏み入るようなことを好まず、人の痛みを想像できる優しさと正義感がある子で、

その良心を捨ててでも残忍になりたかったのか、と思うと辛いし

その正義感は間違いなく自分にも向けられていて、自分の行為を正当化することもできず、

裁きを天に委ね、最後には海から帰ってきた自らの良心に裁かれる、という流れ、めちゃくちゃ美しいじゃん。好き。

 

最後、凪いだような顔をしているのもめちゃくちゃ好き!!

憑き物が落ちたように見えて。悪人になりきれる子じゃなかったんだな〜と思う。

でもきっと瓶が帰ってこなければ完全犯罪を貫き通しただろうな。こうと決めたことをやり遂げられてしまう胆力が、すごく潔癖さを感じて好きなんだよなあ……。

 


6人もの殺人を完遂できたのは、胆力があるゆえだとも思うけど、計画を実行し始めたら後戻りするより仕事をやり遂げるほうが気持ち的に楽だったんじゃないかなという気もする。

これはそういう描写があったとかじゃなく、完全に個人的な推測。

体調悪い中ボートで島を往復したり、かなり無茶なことしてるけれども……

恨みの気持ちに駆り立てられて、そこまでやれた、というより

立ち止まってしまうことのほうが恐ろしかったんじゃないかなあ。

良心、海に捨てたからって本当に心から消えるわけでもないし。我に返ってしまったら心が壊れてしまうから、始めたことをやり遂げるしか道がなかったのかも。

途中でもう死体を見るのが嫌で精神に不調をきたすところいいね。その場の誰よりも追い詰められてて。癖すぎる。ありがとう。

 


1番の癖ポイントは、推理を披露した時に「殺意なんてものを長く持ち続けるのは大変なことなのではないか」って言っておきながら、自分はその大変なことをしていたところ。

ずーっと殺意を抱えてたわけではないだろうけど。絶望があって、そこに「復讐できるかもしれない機会」が舞い込んできた時に、殺意という形をとったんだろう。

だとして、殺しを実行するには至らないまでも、殺意と呼べるだけの恨みは、本当にずっと、抱え続けていたんだろうな。

だからこそ、「普通に想像するより大変なこと」と言えたのかな。恨み続けるって苦しいことだから。その実感が伴った言葉だったのかな。

個人的な話をすると本当に身を焼かれるような憎しみ殺意で苦しんだことがあるけど、あんな感情、ずっと抱えてたら気が狂うよ。

どんなに恨んでも、それで苦しむのは相手じゃなく自分だからなあ。

そんな気持ちを抱え続けたヴァン……両親も妹も殺されてて唯一の救いの彼女も殺されたってなったら、まあ、そうか……辛いね。好きだよ。

千織に関しては、殺された、のかは微妙なとこだけど。そう思いたかったのかなあ。せめて恨みたいよね、誰かを。何も恨めないほうが更に苦しいからね。

 


・中村青司

ずっと影のようにつきまとう青司、良い。

かなりのヤンデレだったと判明した時に興奮しました。

 

建築の天才で風変わりな建物ばっか作って性格は欠けたとこがあって人をうまく愛せなくて妻に異様な執着をして弟に妻を寝取られ妻を殺し使用人たちも自分たちの旅路への供物であるかのように殺し自死する男。

そんな特大闇深ヤンデレが登場するとか聞いてないですよ。いいですね。彼メインの話のほうが癖だったかもしれん。

 

弟にかけた電話で言ってた、次のステージへ行くだとか闇の祝福がどうとか、オカルト方面に足突っ込んでる方なんだな〜ってとこがまた良かった。

そういう発想、気が狂ったからって急に湧いて出ないだろうからね。

十角館にしても、なにかしらのオカルティズムの思想から建ててる可能性ある。いいね〜。

 


・他

 

噂に聞く「驚愕の一行」は本当に驚愕した!

予想を裏切られる興奮ってたまらんね。脳汁出る。

ミステリは良い。

 

なんだけど、個人的に、更にもう一歩踏み込んで精神がひりつくような心理描写を期待してたっぽい。

例えば千織が死んだのは本当にただただ事故で、誰も悪くなくて、むしろミス研のみんなは千織を介抱してた側だった、とか。

全員殺したあとでその事実を知ることになるヴァンの絶望、とか見たかったんよなあ!趣味が悪い

千織が飲みすぎたのはヴァンとの関係に悩んでいたからってのもアリだよね〜!

だって千織おいて先に帰る男だよ?体が弱くて酒を無理に飲めないって知ってたら、私ならよっぽどのことがなければ置いて帰らないな。心配だから。

それやらかしたってことは、今までも何かやらかしててもおかしくないじゃん?彼女が死んだからこそ反省してたけど、死ななければ反省することなく繰り返したと思うもの。

俺のせいだったのか、ってなるヴァン見たい〜!!


まあそこまでやっちゃうと、ミステリっていうより、なんか違う趣旨の小説になっちゃうか。


でも心理描写は弱めの作品だったな〜とは思う。人物の掘り下げが少なくて。

舞台装置と駒がある感じ。

単純にトリックの面白さを楽しむより、人を殺したり殺されそうになったりする特異な場面での人間の心の動きを見るのが好きなんだろうなあ私。

十角館にしても、ただ変わり者の建築家が建てた変わった建物としてしか存在してなくて。

もっとこう、十角である理由とか、青司の思想とか、説明があるほうが個人的に好きだなあ。

そういったところはちょっと期待はずれだった、とはいえ、想像で補完して楽しみました。

オタクの想像力は豊か。

 

あと女の子が台所仕事するのが当たり前な感じとか、男性的な性格と描写されてたアガサがヒステリーを起こすところとか、煙草を海に捨てるとことか、正直に言うとほんのりと不快。

仕方ないんだけどね。そういう時代だったんだな〜と思う。

夢日記 俺たちのアリス

古錆びた部屋。私は机の後ろに隠れている。
ここが何処なのかは知らない。洋風の木造建築で、いくつもの部屋が連なる大きな建物だということだけは知っている。
建物の中には「化け物」が闊歩している。開いたドアの向こう側、廊下を帽子屋と白ウサギが歩いている。
化け物たちは不思議の国のアリスのキャラクターがモチーフとなっているようだ。

やたらとデザインが禍々しい。荒々しい筆致のペン画に、雑に着色したような存在。白ウサギは片目が少し飛び出ている。元からそういうデザインなのではなくて、描き手がぐりぐりと雑に描くものだから、目玉が飛び出ているように見えてしまっている、そんな様子だ。彼等が絵だとするなら、描き手の精神状態がちょっと心配になる。

化け物以外のデザインは現実世界と変わらずちゃんとしていた。

私は彼らから見つからないよう、部屋の隅の机の後ろでブランケットを被っている。こんなもので隠れられるとは思えない。しかし他に隠れる場所も見当たらない。


白ウサギと帽子屋、のような化け物、が部屋に入ってくる。

何かを探している様子だ。

息を飲む。
しかし私の隠れ方は本当に杜撰で、ブランケットから足が出てしまっていた。
白い靴下に黒いパンプス。どこか幼い子供の足に見える。まるでアリスのようだ。

……私はアリスなのか。そんな主要なキャラクターなら、彼らの探しものは私である可能性がある。もっと真面目に隠れなければ。

そうは思っても、もう彼等は目の前まで迫っていた。

大きな背を屈め、机の下を覗き込んでくる。

 

しかし彼等は何もしてこなかった。私の存在は無視して相変わらず何かを探し回っている。私が見えていないのか。それとも単に興味がないのか。

拍子抜けしていると、今まで私など眼中になさそうだった白ウサギがこちらを見た。

「何をしているんだい」

何って。君たちから隠れていたつもりですが。返答に窮する。

「君も手伝ってくれないか」

一緒に何かを探せと言っている。

そこで気がつく。私は三月ウサギだ。

そういえば、そうだった。

立ち上がると、やたらと大きく見えた白ウサギよりも自分のほうが背が高かった。今背が伸びたのか、最初からこうであったのか。

自分の体を見る。白い靴下に黒い靴、そんなものは幻想だ。俺の体は景気よく、原色のオレンジや緑に光っている。気分がいい。そうとわかってしまえば何も怖いものなどない。俺は化け物、はなからこっちの側なのだ。俺を襲うものなどいない。

「いや悪い、ぼうっとしていた」

「本当だよ、君ったら人形みたいに動かなくって、どうしたのかと思ったよ」

「すまんすまん」

探し物はわかっている。○○だ。俺は隣の部屋へ行き、ガラクタの中をゴソゴソやったが見つからない。とりあえず元の部屋へ戻って白ウサギたちと合流すると、別の部屋から仲間のひとりが慌てて駆け込んできた。

「大変だ、アリスが熱を出したんだ」

「なんだって」

ああ、俺たちのアリス。君がいなくてはおしまいだ。

今日はピアノの発表会。アリスはここで俺たちと、たいへん熱心に練習をした。俺たちも彼女のためにずっとずっと準備してきた。

それなのに。全てがぱあだ。彼女がいないんじゃ、俺たちは人間の行事なんかに興味はない。

ああ俺たちのアリス。具合はどうなんだ。少しでもピアノは弾けないものか。何とかしてやりたいが。

 

こちらに向かってくる車があると、仲間からの報告。

透視を使って外を見る。暗く湿った空気だ。たぶん夜で、雨でも降ったのだ。ここはいつでも晴れているのに。外の世界とは陰気なものだ。

曲がり角からトラックが一台、慌てたように突っ込んでくる。車の中までは透視できなかったが、俺にはわかった。中にアリスが乗っている。

俺たちは迎えに行った。運転手の男は彼女の親でも教師でもなく、ただ頼まれただけだと言って、やたらと汗をかいている。事情をなんにも呑み込めていない、使えない人間だ。アリスを俺たちに渡すとすぐに帰ってしまった。

アリスは布に包まれて、荒い息をしていた。目をつむっている。眠っているのか。頬が赤い。苦しそうだ。仲間のひとりが彼女を抱き抱え、オロオロしている。こんな時にどうしたものだか俺たちは知らない。ピアノを弾けそうにないことは分かった。

「ああアリス、かわいそうに」

「彼女の名前、なんだった?」

「本名か。確かタニナカ……」

「ナカタニじゃないか?」

俺は彼女が通う学校の名簿を見る。彼女の本名は中谷○○だ。人間としての知識も必要になる。覚えておこう。(しかし下の名前は思い出せない)

アリスが目を覚ます気配があった。目はほとんど開いていないが、ほんの少し微笑んでいる。何を笑うことがある。

「いいことがあったよ」

とアリス。聞けば、クラスメイトからたくさん手紙をもらったのだそうだ。色とりどり、犬や猫の形に折られた便箋。ピアノがんばってね。早くよくなるといいね。彼女が体調を崩したから、そのお見舞いに、教師が生徒に書かせたものだった。その中には、俺たちからの手紙も混ざっている。けれど彼女が話すのは、クラスメイトからもらった手紙のことばかり。

俺たちはいつだって、眠る彼女の枕元にたくさんの手紙を置いたんだ。動物の形には折れないが、カラフルなペンで模様を書いた。可愛いだろう。

今まで彼女に手紙を書くのは俺たちだけだった。なのに熱を出した途端にこれだ。どうせ心なんてこもっていない。教師に書かされただけの手紙。そんなもののほうがお前は嬉しいのか。アリス。

お前はここにいるべきではないのだろうか。

そんなこと俺は知らない。ここにいればいい。ずっと。発表会は中止だ。ピアノなんて弾かなくていい。今は眠れ。アリス。俺たちがついている。お前にはずっと俺たちがついている。アリス。